焦点:難民は「未来の熟練工」、ドイツ高齢化の救世主か

わが国経済の未来にとって最大の課題の1つが解決するだろう」とガブリエル副首相兼経済・エネルギー相は10日、議会で語った。

image


"ドイツは年内に約80万人の移民を受け入れる予定だ。移民で不足を埋めつつ、人口を維持するのはドイツ政府にとって簡単なことではないだろう。だが、多くの企業はすでに彼らに期待のまなざしを向けている。

ドイツ西部の都市ドルトムントで小さな床張り事業を営むダニエル・コックさんは、研修生を探して1年がたったころ、地元の手工業会議所(HWK)から難民を引き受ける気はないかと聞かれた。
その後、コックさんのところには31歳のエリトリア出身の男性が派遣された。男性には床張りの経験は全くなかったが、2週間に及ぶ試用期間を経て、2018年まで見習いとして働くことになったという。

「期待していたわけではなかったが、能力があったし仕事熱心だった」と、コックさんは話す。コックさんは、これまで数え切れないほど満足のいかない研修生を受け入れてきたという。

ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッシャー所長は、同国で過去5年間に新たに創出された雇用約150万人の3分の2以上が移民で占められたとし、「ドイツの経済力を維持したいなら、労働者が必要だ」と指摘した。

<恩恵か負担か>難民の約5分の1を受け入れるドイツ最大州ノルトライン・ウェストファーレン州にあるドルトムントは4000人程度を引き受けるが、年末までにその数は倍増する見通しだ。
工業都市であるドルトムントは炭鉱業が衰退し、失業率は12%超に上る。これは全国平均の2倍だ。

欧州の指導者らは難民受け入れを拒否する理由として高い失業率を挙げるが、ドルトムントのHWKは異なる見方をしている。同市では企業の4分の1程度に空きがあるとしたうえで、HWKの広報担当者はドイツ人の多くが徒弟制度には興味を持たず、大学への進学を希望すると語った。

そこでHWKは今年、難民85人に言語と数学のテストを実施し、シリアやコンゴ、エリトリア出身の15人を選んで眼鏡技師や電気技師としての訓練を行った。コックさんの会社で働く男性はそのうちの1人だ。

徒弟制度では、時給8.50ユーロ(約1150円)という最低賃金が義務付けられていない。労働組合は、難民が安い労働力として搾取されないよう対策の必要性を訴えている。

難民流入が賃金引下げを招く恐れについて、HWKの広報担当者は、徒弟制度の報酬は団体協約によって固定されていると回答した。

ドルトムントHWKの責任者は、小規模な企業は時に難民にとって家族の代わりとなり、新たな生活を送る助けとなっていると話した。

その一方で、難民流入の「負の側面」も浮上し始めた。デメジエール内相は国家の負担が増加する可能性を指摘。ナーレス労働社会相も手当受給者の数が最大で46万人増加する可能性があるとしている。

ドイツ政府は、手続きの簡素化など難民が労働市場に参入するまでの時間短縮化を実施している。

労働の未来研究所(IZA)の副所長は、単に空きがいっぱいあるからといって、難民で熟練労働者の不足を解決できると考えるのは誤りだと指摘する。「中長期的に見れば、ドイツが抱える人口動態の問題は緩和できる可能性がある。とりわけ、われわれが社会として難民を労働市場にうまく溶け込ませることができるのであれば。ただし言うまでもなく、これはチャレンジであり、約束された成功などない」と話した。
(Tina Bellon記者、Caroline Copley記者、翻訳:伊藤典子、編集:下郡美紀) "